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東京地方裁判所 昭和56年(特わ)436号 判決

本籍

東京都中野区東中野二丁目三七番地

住居

東京都杉並区善福寺二丁目一六番四号

会社役員(元司法書士)

内藤和郎

昭和四年一〇月一九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井上経敏出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金一、三〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都中野区東中野四丁目六番五号山手ビル三〇一号(昭和五三年一〇月三一日以前は同都中野区東中野一丁目五六番一号大島ビル第一本館)において、「司法書士内藤和郎事務所」の名称で司法書士業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、架空経費を計上したり、累進課税を免れるため自己の所得の一部を他人名義で申告するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五二年分の実際総所得金額が三、五四一万九、五一〇円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五三年三月六日、東京都中野区中野四丁目九番一五号所在の所轄中野税務署において、同税務署長に対し、同五二年分の総所得金額が一、三二七万〇、九〇六円でこれに対する所得税額が二三五万四、五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五六年押第八三三号の1)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一、四〇四万一、二〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一、一六八万六、七〇〇円を免れ、

第二  昭和五三年分の実際総所得金額が四、五三三万二、七二三円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五四年三月一三日、前記中野税務署において、同税務署長に対し、同五三年分の総所得金額が一、五七〇万七、六〇三円でこれに対する所得税額が三一六万五、六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同号の2)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一、九八八万八、九〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一、六七二万三、三〇〇円を免れ、

第三  昭和五四年分の実際総所得金額が四、六二九万九、八二二円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五五年三月一三日、前記中野税務署において、同税務署長に対し、同五四年分の総所得金額が一、五八三万〇、五一五円でこれに対する所得税額が二四九万一、〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同号の3)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一、九五九万四、五〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一、七一〇万三、五〇〇円を免れ、

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書三通

一  柳澤千歳、鈴木幸治及び野村武彦の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の内藤和郎の算出税額から控除する源泉徴収税額の計算書

一  中野税務署長作成の証明書

一  検察官、被告人及び弁護人作成の合意書面

一  押収してある所得税確定申告書六袋(昭和五六年押第八三三号の1ないし3、7ないし9)及び所得税青色申告決算書六袋(同号の4ないし6、10ないし12)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも行為時においては、昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の所得税法二三八条一項に、裁判時においては右改正後の所得税法二三八条一項に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条ににより、いずれについても軽い行為時法の刑によることとしいずれも所定の懲役と罰金を併科し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一〇月及び罰金一、三〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、司法書士であった被告人において、三年度にわたり合計四、五〇〇万円余りの所得税を免れたというものであるが、被告人は、動機として、司法書士業務の性質上顧客の印紙代の立替えをさせられることが多く、また、得意先である銀行に対し預金面で協力しなければならないことなどから運転資金としてかなりの資金が必要であったこと、自己の事務所に雇っていた身内の者の生活関係について面倒をみるため自由に使える金が欲しかったこと、かねてより累進課税制度に不満を抱いていたことなどを供述するがこれらの事情が脱税を正当化するものでないことは言うまでもない。また、犯行の態様は、経費の架空・水増し計上、手形割引料収入・給付補てん金収入・株式売買取引益の各除外、他人名義による所得申告など多様な手段を用いていて芳しいものとはいえず、ほ脱率も約八五パーセントと高率であることやその他本件以前から脱税を行っていて納税意識の希薄さが窺えることなどの事情にかんがみると被告人の刑責は軽視できない。

しかしながら、ほ脱額は判示の程度に止まり、犯行後対象年度につき修正申告し、一部について納付していること、本件を反省し、自ら司法書士の登録を取消したこと、前科前歴がないこと等被告人に有利な事情も認められ、その他家庭の事情、健康状態等本件にあらわれたすべての事情を総合考慮して主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 裁判官 川口政明)

別紙(一) 修正損益計算書

内藤和郎

自 昭和52年1月1日

至 昭和52年12月31日

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

内藤和郎

自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

〈省略〉

別紙(三) 修正損益計算書

内藤和郎

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

〈省略〉

別紙(四) ほ脱税額計算書

内藤和郎 昭和52・53・54年分

〈省略〉

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